SPECIALISTの声
臨床歴35年というベテラン獣医師であり、大学で学生に指導をされることもある小沼先生に愛犬の散歩について伺いました。
「散歩は“運動”だけではありません。犬の身体・心・そして人との関係を整える時間であり、その先に予防医療につながる大切な時間です」と、改めて散歩の大切さを教えて頂きました。
愛犬との大切な時間である散歩について、獣医さんの視点から解説してもらいます。
今回がいよいよ全4回の最終回となります。

散歩は「しつけ」ではなく「対話」です
前に進ませること、周囲に迷惑をかけないことに気を取られて、ふと気づくと、犬の顔をあまり見ていなかった。そんな経験のある飼い主さんも多いかもしれません。
けれど散歩は、本来、犬の変化に気づき、気持ちをやりとりする「対話の時間」です。
言葉を使わない犬との会話は、とても静かで、ささやかなものですが、そこには大切なサインがたくさん詰まっています。
犬の変化は、とても小さな形で現れます。
「歩くスピードが少し変わった」「匂いを嗅ぐ時間が長くなった(短くなった)」「以前は気にしなかった音に反応するようになった(反応しなくなった)」など。
こうした日常のちょっとした変化は、心の状態や環境の影響を映しているだけでなく、老化や病気のサインであることも少なくありません。

犬は言葉を話しませんが、体全体を使って、たくさんのことを伝えています。
「しっぽの高さ・耳の向き・首や体、四肢の向きや重心」など。
散歩中にこうしたサインを少し意識するだけで、犬の気持ちは驚くほど分かりやすくなり、病気の早期発見につながります。
対話とは、指示を出すことではなく、犬の発信を受け取ることなのです。

犬の変化に気づくことは、特別な技術でも、難しい知識でもありません。
「今日はいつもより静かだな」「この道、少し苦手そうだな」「今日は疲れやすいから短めにしよう」そう感じること自体が、すでに立派なケアです。
散歩に出る前、ほんの数秒で構いません。
「今日は元気そうか」「いつも通りの動きか」「いつも違う反応がないか」、犬の様子を見てみてください。
この「ひと呼吸」があるだけで変化が生まれます。
散歩が終わった後も同様です。
散歩後、犬がリラックスして眠る、穏やかな表情をしている、それは、その散歩が犬にとって良い時間だったサインです。
散歩は「行って終わり」ではなく、犬の一日の質を左右する時間ともいえるのです。
忙しい毎日の中で、犬とただ歩き、同じ時間を共有する散歩は、とても静かで、贅沢な時間です。
その時間の中で、犬の変化に気づき、気持ちを想像し、そっと寄り添う。
それこそが、犬と暮らす私たちにできる、最も自然な対話なのだと思います。

寄稿:小沼守氏 獣医師・博士(獣医学)
—編集後記—
今回は、散歩の大切さを改めて考える全4回の最終回でした。 いつもの散歩で愛犬の変化を感じるためには、よく観察したり考えてあげることが大事ですね。 忙しい生活のなか、愛犬との散歩が贅沢と感じることは難しいかもしれませんが、健康ケアの第一歩でもあり、大切な時間にしたいですね。
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