SPECIALISTの声


「引っ張るんです」「よく吠えるんです」「落ち着きがなくて……」
これまで多くのこうしたお悩みを本当によく聞いてきました。そして多くの場合、飼い主さんは「しつけが足りないのでは」「自分の育て方が悪かったのでは」と、とても真剣に悩んでおられます。
ですが、35年間犬たちを診てきた臨床獣医師として、私はこう感じています。
それは性格の問題ではなく、愛犬の行動欲求が満たされていないサインが隠れているかもしれないと…。
犬は言葉で「不安」「疲れた」と伝えることができません。
その代わりに、行動でサインを出します。
「落ち着きがない」「飼い主のいうことを利いてくれない」「すぐ興奮する」「音や人に過敏になる」「夜だけ散歩を嫌がる」「すぐしゃがみこむ」「いつもと違う方向へ行きたがる」など。
こうした変化は、心に余裕がなくなっているときに起こったり、病気の1つのサインであったりします。そして散歩は、そのサインに気づける、いちばん身近な時間でもあります。
そんなとき、「早く行こう」「ダメ」と声をかけてしまいがちですが、それは犬が自分で状況を確認し、納得しようとしている、または休んでいる時間でもあります。
この時間に「なぜ?」と少し考える時間を設けましょう。

犬の散歩で、ぜひ大切にしてほしい行動があります。
それは「匂いを嗅ぐこと」です。
もちろん、感染症の観点から積極的に長い時間設けるべきではないのは言うまでもありません。
ただし、匂いを嗅ぐ行為は、犬にとって「情報を集める・環境を理解する・安心する」という、とても重要な行動です。
私たち人間が景色を眺めて落ち着くように、犬は匂いを嗅ぐという行動欲求を満たすことで心と身体を整えています。

犬の行動欲求の満たされないストレスは、元気がなくなる形ではなく、むしろ、「引っ張る・吠える・飛びつく」といった行動として現れることも多いのです。
これらは、犬がなんだかイライラして「困っている」「どうしていいか分からない」と伝えているサインです。

もちろん、ルールや安全は大切です。
けれど、散歩の目的が「言うことを聞かせる」ことだけになってしまうと、犬の心はどんどん緊張していきます。
散歩でまず育てたいのは、「この人と一緒なら大丈夫」という安心感です(リードやメリハリは必要)。
安心できる犬は、自然と落ち着き、結果として問題行動も減っていくことでしょう。
「心のケア」、どこか特別なことのように感じるかもしれません。
けれど本当は、犬の気持ちに少し耳を傾けること、散歩の時間を丁寧に過ごすこと―それ自体が、犬の心を守る行為です。
次回は、「散歩は“しつけ”ではなく“対話”」という視点から、人と犬の信頼関係についてお話しします。
寄稿:小沼守氏 獣医師・博士(獣医学)
—編集後記—
小沼先生には普段より色々と教えて頂いています。散歩は健康診断だと思って、愛犬の様子をよく見て、どう感じているか考えてあげることが大事なんですね。
次回は全4回に渡ってお届けしてきた、散歩の大切さを考える最終回です。
楽しみにお待ちくださいね!
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