SPECIALISTの声
サニーカミヤ様は、ペットの救命救急に関する知識や技術を日本全国に広めるべく、各地で講習会などを行なっています。
また災害における救助のプロとして、テレビや雑誌等でも幅広く活躍されている方です。
今回はペットとの日常生活で誰にでも起こりうる命の危険性と、いざという時に役に立つ救助方法を教えて頂きます。
日本では飼い主が役割と責任として知っておくべき、ペットの救急救命法の教育と普及が進んでいない。
全国犬猫飼育実態調査(2019年度)によると、日本にはペットとして飼われている犬は879万7000頭、猫は977万8000頭いるという。その数だけを見てもペットは「大切で身近な家族であり、人生の良きパートナー」といえる。
しかし、ペットも私たちと同じ生体を持った生き物であり、その良きパートナーが突然、喉に物を詰まらせて窒息して、呼吸が止まり、やがて心臓も停止してしまうようなアクシデントに遭遇する可能性があることを認識しているだろうか。
ペットの保険会社や獣医師によると、実際に給餌中の気道異物による窒息事故、風呂での溺水、高所からの落下、そして、屋外では熱中症、交通事故、咬傷事故など、飼い主の目の前で起こる事故が多発しているという。
東京都に住む40代の女性は、飼い犬の11才のフレンチブルドッグ、ジャックの狂犬病ワクチン接種を受けた帰宅後、掛かりつけの動物病院で購入した、馬のアキレス腱を加工したおやつを与えた。
帰宅後、ジャックの口には、少し大きすぎるかなと思いながらも、与えてみるとおいしそうに噛んでいたため、彼女はその場を一旦離れた。
しかし数分後、ジャックの元に戻ってくると、苦しそうに咳き込み、吐き出す仕草を繰り返して、やがて白目をむいて倒れてしまった。
動転した女性は急いでジャックの掛かりつけの動物病院に自家用車で搬送したが、蘇生が間に合わず、帰らぬ命となった。
突然の出来事に気が動転し、ジャックが苦しんだ後に意識がなくなったことに慌てて、頭が真っ白になったが、どうすれば助かったのか?
獣医師に尋ねたところ、獣医師から告げられたことは、背部叩打法など気道異物除去、心肺蘇生法などの応急処置を行っていたら助かっていたかもしれないと言うことだった。
このように、喜ぶと思って与えたペットのトリーツや家庭内にあるさまざまなものが誤飲につながる事故が少なくない。
特にペットが簡単に咀嚼(そしゃく)できないようなトリーツ、初めて与えるトリーツやフードなどは、食べ終わるまで、側にいるか、食べさせる必要が無ければ、最初から与えないことも考えておくべきだと動物救命センターの獣医師は語る。
ペットの救急事故と聞くと交通事故を真っ先にイメージするかもしれないが、実は屋外よりも家庭内のほうが多く、さまざまなリスクが潜んでいることを認識してほしい。
特に食べ物による窒息は、最近よく耳にする事故だ。
さまざまな犬用トリーツなどのジャーキー類は、よく噛まずに飲み込めそうな大きさになるとすぐに犬は飲み込んでしまい、これが気道を圧迫して呼吸困難を起こすことがある。
トリーツやオモチャなどの誤飲以外にも、ソファーなどの家具類や階段からの転落による脱臼、台所やリビングでの落下物による陥没骨折や打撲など、家族とペットがいつも安心できる場所こそ、安全を見直しすることが大切だ。
飼い主が普段からペットの危険について気をつけ、具体的に予防することで、ほとんどの事故は未然に防げる可能性が高くなる。
ただ、それでも救急事故が起きてしまった時、飼い主はどう対処すれば良いのか?
可能な限り救命率を上げ、動物病院へつれて行く前に対応するべき手順や応急処置法を身につけておくことが必要だ。
◆ペットが喉に物を詰まらせたときの救急法
※以下に紹介するペットの救急法、気道異物除去の手技練習は実際の動物に使うと健康被害を生じる可能性がありますので、ぬいぐるみを使っています。
気道異物除去の方法は「背部叩打法」「チェストトラスト法」「ハイムリック法(胸部・腹部)」「催吐反射法」の4つがあるが、今回は代表的な背部叩打法などをご紹介する。
①背部叩打法(対象:小型犬、中型犬)
背部叩打法は苦しそうに何かを吐き出そうとしていて、なかなか出せそうにないとき、意識のあるペットに対して、肩甲骨の間を5回ほど強くたたくことを繰り返し、気道異物を除去する方法。ペットが咳をして吐き出そうとするタイミングに合わせるとさらに効果的。
②チェストトラスト法(対象:小型犬)
四つ足で踏ん張っているペットに対して、後ろから両手のひらを立てた状態で、ペットの両肩に宛がい、両肘を大きく広げて同時に強く圧迫して、ペットの体内圧を高めて気道異物を除去する方法。ペットが吐き出そうとするタイミングに合わせると効果的。
※猫、小型犬には効果的ですが、中型犬以上は背部叩打法かハイムリック法を勧めています。
③ハイムリック法(腹部突き上げ法)
意識のあるペットに対して、拳を上腹部に当て、斜め上方に圧迫して、体内圧を高めて気道異物を除去する方法。ペットが吐き出そうとするタイミングに合わせると効果的。ただし、一般的に小型犬には行わない。また、妊娠しているペットには胸部突き上げ法、未成熟のペットには背部叩打法かチェストトラスト法を実施する。
◆さらに注意するポイントと普段からの備え
異物が除去できた場合でも、内臓損傷を疑って獣医に連れて行くよう飼い主に勧めることが大切だ。
異物が出ずに窒息して倒れてしまった場合は、タクシーを手配し、動物病院に電話をして、カルテ番号と症状を伝え、必要な応急処置(人工呼吸や心肺蘇生法)を行いながら、病院に向かうこと。
ペットの救急法は、いずれの手技もいざという時に役立つので、家族であるペットを守る知識として身につけておくべきだと思う。
突然の事故に遭遇したペットを前に飼い主は平常心を保つことはできない。
緊急時にすぐ対応できるように、予め、かかりつけの動物病院、または最寄りの夜間・緊急動物病院の電話番号と住所、ペットの体重、使用中の薬の有無、これまでの病歴、カルテ番号などをメモし、スマホに保存しておくとよい。
そして、ペットを病院まで搬送する手立ても想定しておく必要がある。緊急時に自分で運転するのは危険。ペット運搬が可能なタクシー会社を2ヵ所以上把握しておきましょう。その際にペットの同乗条件を聞いておくことが大切。
そして何より、施術をする飼い主の安全確保が一番。
いずれの手技を行う場合も、必ず感染予防の手袋をつけること。また必要であれば咬傷防止用にマズル(口輪)もつけるとよい。自分の安全が確保できて初めてペットの命を守ることができる。
家族の一員であるペット。
自分の知識が足りなかったことで命を落としてしまった時の後悔は計り知れない。
前述した女性も「病院に行くまで、ただ抱っこをしているだけで、何もしてあげられなかった。私に知識があればあの子の命はつながっていたのかもしれない」と語っている。
ペットと幸せに生きるひとつの手立てとして、救える命を助けるための救命法を知ることは必要だと思う。
※今回ご紹介した措置は、訓練を受けたペットセーバーが行なうものです。ご自身で行なう際には、獣医の指示なども受けたうえで、ご自身の責任で行なってください。
-編集後記-
イージードッグのスタッフはサニーカミヤ様に指導して頂いて、ペットの救命救急を行なうペットセーバー資格を取得しました。
その際のご縁で、今回は貴重なお話を聞くことができました。
普段から気をつけておかないと、いざという時に対処できないことも多く、色々と興味深く学ばせて頂きました。
ペットセーバーの講習会は各地で定期的に行なわれており、誰でも申し込みできるそうなので皆さま様もぜひご参加ください。
寄稿:サニーカミヤ氏(日本国際動物救命救急協会 代表理事)
オススメの記事をチェック!